治療について

体外受精や顕微授精など、配偶子(精子や卵子)・胚(受精卵)を体外で取り扱う治療を『高度生殖補助医療』といいます。1978年にイギリスで世界初の体外受精・胚移植による赤ちゃんが誕生しました。日本でも累計で384,304人が産まれており(2013年日本産婦人科学会より)、体外受精、顕微授精・胚移植は信頼性の高い治療法のひとつとして広く施行されています。

高度生殖補助医療の適応

対象:『体外受精、顕微授精・胚移植以外の治療法では妊娠の見込みがない、または極めて少ない方』

  1. 左右卵管の閉塞、狭窄、癒着などによって精子と卵子が物理的に出会えない
  2. 子宮内膜症などによる癒着や炎症による因子
  3. 高齢で妊娠のチャンスが少ない場合
  4. 精子数が少ない、精子の運動率が低いなどで妊娠が成立しない場合
  5. 数回にわたる人工授精(AIH)でも妊娠が成立しない場合
  6. 原因不明の機能性不妊の場合

体外受精、顕微授精・胚移植の流れ

【1】採卵に向けた卵胞期管理

当院の治療方針は、ご自身のホルモンバランスを生かしたより自然に近い方法を基本とします。過剰な排卵誘発剤やhCG製剤は使用しません。(卵胞発育が得られると予測される最低限の排卵誘発剤は使用する場合があります。)

採卵周期(完全自然周期、自然周期)

  1. 完全自然周期採卵
    当院の治療の基本となる方法です。 月経周期が整っている患者様は完全自然周期による治療が行えます。完全自然周期は良い卵子を体が選んでくれる周期です。そのため、主席卵胞から得られた卵子は最良の卵子である可能性が高いのです。この方法は生理3日目から排卵前までの内服薬や注射は一切使わず、最適な卵胞サイズ、ホルモン値に達した時点から点鼻スプレー(ブセレキュア)で排卵誘起し採卵します。
  2. 自然周期採卵(レトロゾール錠)
    レトロゾール周期は薬剤を用いる治療法の中で、最もマイルドな排卵誘発効果を促す方法となります。 完全自然周期での排卵が難しいと予測される場合に、レトロゾール周期での治療を検討いたします。 レトロゾールは卵胞ホルモン(エストロゲン)産生を阻害する作用があると同時に、卵胞発育や卵子の成熟を促す作用があると考えられています。レトロゾールは月経3日目より内服し、最適な卵胞サイズ、ホルモン値に達した時点から点鼻スプレー(ブセレキュア)で排卵誘起し採卵します。必要な際は少量の排卵誘発剤を隔日で注射する場合もあります。
  3. 自然周期採卵(クロミッド錠)
    クロミッド周期は月経3日目よりクロミッド1錠のみを毎日内服し、最適な卵胞サイズ、ホルモン値に達した時点から点鼻スプレー(ブセレキュア)で排卵誘起し採卵します。必要な際は少量の排卵誘発剤を隔日で注射する場合もあります。

    ※点鼻スプレー(ブセレキュア):
    GnRHアゴニストと称される点鼻薬です。視床下部ホルモンGnRH(Gonadotropin releasing hormone)の誘導体であり、性腺刺激ホルモン(ゴナドトロピン)の分泌を抑制する作用があります。この薬剤を用いることにより、脳の下垂体からLHが大量に分泌されるLHサージという現象が起こり排卵を引き起こす事が出来ます。GnRHアゴニストは排卵のタイミングをコントロールするために用いられます。

治療中のキャンセルの可能性

採卵周期を始めても必ず治療を全うできるとは限りません。排卵誘発剤を使用しても薬剤抵抗性によって卵胞が育ってこない事もあります。

卵巣過剰刺激症候群(OHSS)

当院の自然周期採卵においては、非常に頻度は少ないですが、排卵誘発剤を使用することで起きる合併症です。卵巣が大きく腫れたり、お腹に水が溜まる事があります。血管内が脱水になるので血栓症を起こしやすくなります。症状として、腹部膨満感、胃部不快感、尿量減少、体重増加などがあります。多くの場合は、安静で軽快しますが重症化すると入院して点滴が必要になります。

【2】採卵

経腟超音波下で専用の採卵針を用いて卵胞穿刺し、卵子を取り出します。1つの卵胞から卵子を採取できる確率は約70%です。中には卵子が入っていない空っぽの卵胞(空胞)もあります。
当院では特別に製造した永遠幸グループの採卵針を使用するため無麻酔採卵が可能です。15分後には帰宅できるほど身体的負担が少ないのです。(局所麻酔希望の方は施行可能です。)

治療中のキャンセルの可能性

採卵日に既に排卵している、また採卵しても空胞により卵子が獲得できない場合もあります。

局所麻酔の影響

採卵時に局所麻酔を施した場合の副作用で、気分が悪くなる場合があります。

採卵時のリスク

まれに出血や感染を起こすことがあります。頻度は非常に少ないですが、外科的手術が必要になる場合もあります。

採卵針について

当院は、永遠幸グループの採卵針を使用します。永遠幸グループは、1999年より採卵針の独自開発を開始し、現在は世界標準の採卵針(17ゲージ)に比べ、約2分の1の太さの採卵針(21または22ゲージ)による採卵を行っています。また針の先端部分の刃は特殊な方法で加工されており、組織へのダメージを最小限に抑えるように工夫されています。 また、この極細針では痛みや出血も軽度なため、一般的な不妊治療施設で行われている採卵のための全身麻酔処置は必要ありません。 また、身体に大きな負担をかけず、通常は数分間で採卵が完了します。

【3】採精

凍結精子を融解して使用するか、自宅または採精室にてマスターベーションで精液を採取していただき、精子調整を行い運動性の高い精子を集めて受精させます。

【4】体外受精

通常の体外受精は、卵子に適正な数の精子を振りかけて受精を待ちます。この方法で受精しにくい、または、精子の所見が悪い場合には顕微授精という技術があります。

【5】顕微授精

1992年にベルギーで初めて顕微授精による妊娠例が報告されてから世界中に普及し、日本でも1994年に分娩例が報告されました。

顕微授精の方法

=ICSI(卵細胞質内精子注入法:Intracytoplasmic Sperm Injection)=

精子の数、運動率、形態などに問題があり、通常の体外受精では受精率に限界があると考えられる方のための技術です。採卵した卵子に1個の精子を針で直接注入する特殊技術です。

=IMSI(Intracytoplasmic Morphologocally Selected Sperm Injection)=

顕微授精に用いる精子は運動性のあるもの、形態異常のないものを選択します。それは、形態異常のある精子は、受精率がよくない傾向にある事が報告されているからです。当院では、精子の形態をより詳しく観察するために超高倍率の顕微鏡を用いて確認をします。

=卵子紡錘体の確認 Polscope=

通常の顕微鏡では紡錘体(染色体を含んだ細胞内構造物)を確認することは困難で、ICSIによって紡錘体を破損してしまう可能性もあります。当院では、Polscopeを用いて紡錘体を確認しています。紡錘体の位置を確認してICSIを行うことで、より受精率を高めることが出来ます。

顕微授精の適応

『顕微授精・胚移植以外の治療法では妊娠の見込みがない、または極めて少ない方』が対象です。

  1. 重症男性不妊症
    重症乏精子症、精子無力症、精子奇形症、不動精子症などで極端に精子の数が少ない、または極端に精子の動きが悪いなどの為、通常の体外受精では受精が難しいと考えられる方。
  2. 既に通常の体外受精での体外受精・胚移植を受けられて、受精障害があった方。
    過去の体外受精で受精できなかった、あるいは受精率が非常に低かった方や抗精子抗体を持つ方。

体外受精、顕微授精による妊娠への影響

現在、国内で年間4万人の赤ちゃんが体外受精、顕微授精によって産まれています。通常の自然妊娠と比べて特に危険な治療法ではないと考えられていますが、体外受精、顕微授精による妊娠は自然妊娠と比較して流産率が高い、または早産・帝王切開・低出生体重児・先天異常などの周産期合併症の発生率が、自然妊娠と比較して若干増加すると報告されています。しかしながら、先天異常に関しては自然妊娠でも1~2%に認められ、体外受精、顕微授精が先天異常を有意に引き上げる医療行為ではありません。よって、体外受精、顕微授精を含めた高度生殖補助医療を必要とするご夫婦にとって、このようなリスクが高度生殖補助医療による治療の有益性を上回る事はないと思われます。

顕微授精に代わる方法

精子の状態が不良だからといって必ずしも通常の体外受精が不可能とは言い切れません。しかし、明らかな受精障害がある夫婦が挙児を望む場合、顕微授精を選択せざるを得ないというのが現状です。

【6】培殖

受精が成立した胚(受精卵)は体外で培養し、分割胚または胚盤胞まで培養します。

=iBIS受精卵観察システム=

受精卵の観察は高度生殖補助医療においては、必要不可欠な培養業務です。そのために保管している胚を培養装置から一旦、外に取り出して観察しますが、その操作が胚にとっては大きなストレスとなります。当院では、観察時に外に取り出す必要のない、培養装置と顕微観察システムが一体となったiBIS受精卵観察システムを導入しています。

=分割胚、胚盤胞培養=

胚は、順調に分割すると受精2日目で4分割、3日目で7~8分割になります。この時期の胚を移植するのが分割胚移植です。この移植方法で着床が見られない場合、胚が体内で5~7日目で着床直前の状態である胚盤胞まで育っていない可能性が考えられます。そういった場合には胚盤胞培養を行います。体外で5~7日間培養して胚盤胞になったものを移植します。胚盤胞まで発育せず、移植がキャンセルになる可能性もありますが、良好な胚盤胞が移植出来れば、着床率は高くなります。

=透明帯除去(Assisted Hatching)=

胚盤胞を移植する前に、胚の周囲を覆う透明帯を薄くする、もしくは一部をカットする操作です。胚が透明帯から脱出しやすくなり、着床しやすくなると考えられています。当院ではレーザーを用いて、より安全性の高いアシステッドハッチングを行っています。

治療中のキャンセル

採卵できても受精できない、受精しても途中で発育が止まる、この様な卵子や胚の質による要因で胚移植まで到達出来ないこともあります。

【7】胚移植

単一胚移植(Single Embryo Transfer :SET)

一般不妊治療の排卵誘発剤を用いた過剰刺激による複数の排卵、そして体外受精による複数胚移植(2個以上の受精卵を子宮に戻す)は多胎を増加させる原因にもなっています。本来、ヒトは単胎です。多胎は早産、帝王切開、母体合併症の増加につながります。当院では単一胚移植(Single Embryo Transfer :SET)のみを行っています。
(※)日本産科婦人科学会は、不妊治療による多胎妊娠を減らすため、「35歳未満の女性なら1個」、また「35歳以上の女性や反復不成功例の場合でも2個まで」にとどめるよう会告を出しました。

胚移植日まで

  1. 完全自然周期胚移植
    排卵前まで内服薬や注射は一切使わず、排卵前の卵胞サイズ、ホルモン値から点鼻スプレー(ブセレキュア)だけで排卵を誘起し移植日を決定します。ホルモン値によって算出される移植日の設定が変わります。より自然に近く身体にやさしいシンプルな移植法である一方、治療周期の準備、排卵時期のタイミングの見極めなど熟練を要する移植法です。
  2. レトロゾール周期胚移植
    月経3日目より5日間程度レトロゾールを内服し、排卵前の卵胞サイズ、ホルモン値から点鼻スプレー(ブセレキュア)だけで排卵を誘起し移植日を決定します。ホルモン値によって算出される移植日の設定が変わります。より自然に近く身体にやさしいシンプルな移植法である一方、治療周期の準備、排卵時期のタイミングの見極めなど熟練を要する移植法です。
  3. ホルモン補充周期胚移植
    排卵障害のある方、ホルモン環境が不安定な方に適しています。複数のホルモン製剤を用いて子宮内膜の形態や厚さ、ホルモン値を正確にコントロールすることによって胚移植を行っています。また、着床が確認された後は、絨毛(胎盤になる成分)からのホルモン産生が確立する妊娠8週頃まではホルモン剤を継続する必要があります。

胚移植方法

培養した胚を子宮に戻す胚移植は、カテーテルという細い管を用いて超音波下で移植します。子宮の入り口からカテーテルが入りにくい方には針で移植する方法(TOWAKO メソッド)もあります。当院ではこの2つの方法を使い分けて子宮の底部に確実に移植します。
当院では単一胚移植(Single Embryo Transfer :SET)のみを行っていますので、余剰胚(移植する胚以外)や何らかの理由で子宮内膜に問題がある場合は胚を凍結保存し、子宮内膜が良好な周期に移植します。

移植に用いるカテーテルについて

永遠幸グループが独自開発した細く柔らかいカテーテルを使用します。 一般的なカテーテルが6フレンチというサイズなのに対して当院では2フレンチのカテーテル(2分の1以下の太さ)、素材も従来のテフロンという堅いものからシリコンという非常に柔らかいものを使用します。

治療中のキャンセル

胚移植当日に元々の子宮の角度や子宮筋腫があるまたは、手術後などの要因で移植専用カテーテルの挿入が難しく移植出来ないこともあります。その際は、胚を凍結(融解胚移植の場合は再凍結)し、別の周期で移植を計画する事もあります。

【8】胚移植後妊娠判定

当院では妊娠判定は、分割胚移植の場合は移植後12日目、胚盤胞移植の場合は移植後5~7日目に来院していただき妊娠判定を行います。ホルモン値により妊娠と判定できた場合は、その後5日~7日間おきに来院していただき、超音波検査とホルモン検査で経過観察を行い妊娠9週頃で卒業となります。

妊娠成立後のリスク

  1. 異所性妊娠(子宮外妊娠)
    子宮内に移植された胚は卵管に遡上し、再び子宮に戻るとされています。その過程に障害があると胚が途中で着床してしまい、異所性妊娠となる事があります。自然妊娠による発生率よりは、若干上昇すると報告されています。
  2. 多胎妊娠
    移植胚数が増えれば多胎妊娠の可能性も増加します。また、1個の胚を移植した場合でも双胎となる可能性があります。多胎妊娠は早産、未熟児、帝王切開率の増加などの周産期合併症のリスクとなります。双胎以上の妊娠の際は、他の医療機関へ紹介させていただきます。