胚凍結保存、融解について

胚の凍結保存

これまでの体外受精、顕微授精・胚移植は、1回の治療における妊娠率が高くなるよう複数個の胚が移植されていました。その結果、多胎妊娠が増加し、母体の合併症や未熟児出生などの医療面だけでなく、経済的・社会的な問題が生じたことから、2008年の日本産科婦人科学会会告により、現在では原則胚移植数は1個に制限され、当院でも単一胚移植(Single Embryo Transfer :SET)のみを行っています。また、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)は妊娠によって重症化することがわかってきたため、近年では新鮮胚移植をせず凍結保存をすることが増加しています。凍結保存技術の進歩により、新鮮胚移植と凍結融解胚移植とを比較した場合、妊娠率に差がみられなくなっています。

凍結胚の保存を行う状況

  1. 新鮮胚移植後、胚に余りが生じた場合
  2. 新鮮胚移植が下記の理由でキャンセルとなった場合
    採卵数が多くOHSS(卵巣過刺激症候群)が出現する可能性が高い場合
  3. ホルモン環境が悪く着床障害を起こすことが予測される場合
  4. 子宮内膜の環境と胚の成長スピードにズレが生じて同調性が得られない場合
  5. 凍結保存を目的とし、別の周期で移植を計画している場合

凍結胚の保存方法

胚の凍結方法は大別すると超急速ガラス化法(Vitrification)と緩慢凍結法の2種類あります。欧米では緩慢凍結法が主流であるのに対し、日本では10年以上前から超急速ガラス化法の有効性が認められ臨床に多く用いられています。当院でも細胞の機能を損なうことなく長期保存を可能とするVitrificationを行っております。

凍結胚の保存管理

凍結保護剤を用いて、マイナス196℃の液体窒素タンク内で保存されます。液体窒素タンクは液体窒素の揮発やタンクの劣化を防ぐ為、温度・湿度の差が生じない専用の部屋で施錠を行った上で厳重に保管されます。

凍結胚保存のリスク

  1. 凍結胚の障害
    凍結融解操作の過程で氷晶、低温、耐凍剤に由来する障害を受ける可能性があります。
  2. 透明帯の硬化
    凍結保存によって透明帯が硬化することがあります。その場合は、より着床率を高めるために透明帯除去(assisted hatching)の適応になることがあります。
  3. 先天異常
    凍結融解操作が胚に与える影響が懸念されますが、凍結胚で妊娠した赤ちゃんを出生後調査したところ、身体発達にも精神発達にも自然妊娠と差は認められなかったと報告されています。また、マウスなどの動物胚でも、凍結に由来する異常は見つかっていないようです。ただし、長期予後は不明であり、さらなる長期の観察が必要です。

胚凍結保存および融解・胚移植を実施しない場合の不利益と危険性について

卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の発症が予想される場合、新鮮胚移植ができなくなり、余剰胚を廃棄する可能性があります。もし新鮮胚移植を強行するとOHSSが重症化する恐れがあります。また、現在は移植胚数が制限されていますので、余剰胚があった場合は廃棄せざるを得なくなります。

胚凍結保存を実施しない場合の他の治療法等の選択肢について

新鮮胚移植をすることになります。ただし上記の危険性があります。

凍結融解胚移植

凍結した胚を採卵した周期とは別の周期に融解し移植します。

凍結融解胚移植方法

凍結融解胚移植による胚移植の場合も、完全自然周期胚移植、レトロゾール周期胚移植、ホルモン補充周期胚移植のいずれかの方法で胚移植を行います。

移植胚数について

上記のとおり当院では単一胚移植(Single Embryo Transfer :SET)のみを行っています。

胚融解後のリスク

  1. 凍結胚は凍結及び融解の際にまれにダメージを受けることがあるため、融解後の胚の生存率は90~95%と考えられています。注意深く凍結・融解を行っても5%未満の確率で胚の破壊が起こりえるため、融解した胚がすべて生き返り、良い状態で進むとは限りません。そのため、融解した胚の状態によっては、胚移植キャンセルとなり胚を廃棄する場合があります。
  2. 凍結、融解自体が出生した児に影響を及ぼしたという報告はありませんが、この方法により出生した児の長期予後についてはまだ確定したものはなく、今後慎重にフォローしていく必要があると考えられています。